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大好きなアートと文芸関係、それに仙台を中心に私が見た日常のことを書いています。時々頑張って大体のんびり。もさらくさらの18年……。
読み終えた今、物語全体を通して感じることは、

 「これは鎮魂の物語だったのだな」

 ということです。

 詳しい解説とか書評とかはできません。これは個人の感想です。ただ10年前にもやられ、今回また読み終えた強大な感想をまとめることは私の目下緊要なことであると確信しているのでまとめます。


 最初は私も奇門遁甲とか式神とか、そういう超自然的な魔術妖術を駆使する魔人加藤とそれに立ち向かう人たちとの闘いに心躍らせました。それは今回読んだ時も同じです。また、魔人加藤やそれ以外の人たちの陰謀と情念に翻弄され精神を病みようやく解放されたと思ったらまた現世に呼び戻されまた殺された辰宮由佳理ら薄幸の女性たちに同情し、涙を流しました。

 今回読み直すと、読む方もまた地力がついたのか、それとも2回目だからなのか、あらすじ以外の詳しい話もだいぶん頭に入ってきました。うすぼんやりとしていた世界がよりクリアに見えたのです(だからこうして文章を書きたくなって現在に至ります)。

 およそ100年にわたる戦い。時代が移り変わり、何度も破壊され、そのたびにおびただしい血が流れた――怨霊がうめき、悪鬼がはびこり、魔人が暗躍する地となった東京でしたが、どうやら最後には、それも収まったようです。二度目の大震災、さらに大津波によって破壊され尽くした東京はもはや人の住める地ではなくなり、巨大な墳墓、鎮魂の地となったのです。

 10年前は、この結末を、上手に受け止められませんでした。

 「今までの戦いは何だったんだろう。誰のための、何のための戦いだったんだろう」

 魔人加藤の正体は、あるものが地上に遣わした自分の化身でした。それはわかったのですが、そのために多くの人々が犠牲になったのだとすると……それがどうも自分のなかで消化しきれませんでした。それでも物語は終わってしまったのだから仕方がありません。とりあえず私も生きていくことにしました。戦いの結末を見届け、穏やかな心を取り戻して「破滅教」と呼ばれる新興宗教に入信した彼女のことを思い浮かべながら……。

 10年経って私もたくさん経験を積み、色々と思うようになったところでたどり着いたのが、先述した「鎮魂」ということでした。

 私も地上の亡者のごとく、他人に怨恨を抱き呪詛の言葉を投げかけたことはあります。人を憎み遠ざけたいと思ったことは何度もあります。特に2014年8月~2022年2月の間は、そういう気持ちが高まって高まって高まりまくっていっそ自分がしんじゃえばいいのかなって思ったこともありました。また最近は怨恨と言うよりは、自分自身の感情から発せられる不安要素にさいなまれ、ひどく心を乱していました。

 ああ、そうか。そういう私の心の波長が、物語の波長とぴったり合ったのかもしれませんね。きっと、そう――。

 霊力に敏感に反応する辰宮由佳理の心情に共鳴した私の心。
 数十年にもわたる邪恋を成就するべく、地下に時空を隔てる『境界』を無くすミニチュアの銀座を作り上げる鳴滝翁の心情に共鳴した私の心。
 すべてを受け入れ、穏やかにしてしまう辰宮恵子さんの菩薩のような優しさ(を感じた人たちの心情)に共鳴した私の心。
 
 優しさも激しさも、良い感情も悪い感情も、すべてをさらけ出し、その上で鎮める。

 そう、たぶん一度、表に出さないと、鎮められないのです。一度目覚めてしまったら、ある程度爆発させないと、鎮まらないのです。

 もちろん、これは認識者たる私の視点から見た感想です。物語の中の人物、そして物語を追いかけている――物語の世界に完全に入り込んでいる――間の私には、そんなことはわかりません。ただただ目の前で繰り広げられる出来事に歓び、嘆き、涙し、怒り、戦い、そして――すべてが終わってもまだ自分が生きていることを確認し、ぼんやりしてしまうのです。「完」という文字と、そのあとにある空白に意識が遠のき、のろのろと本を閉じて、今度は自分が現実と呼ぶ世界にある肉体に戻ってきたことを認識するのです。

 まったくもって、壮大な物語でした! ただし10年前と違って、私の精神世界に『帝都物語』の世界はしっかりと溶かし込まれ、ひとつのアマルガムとなりました。それはさらに私自身の経験によって醸成され、きっとまた読み直す時に――高級なウイスキーを詰め込んだ樽の封印が解かれるように、芳醇な香りをふわっと漂わせることでしょう。

 それまで、今しばらく閉じ込めておくことにします。桜の木に抱かれながら……。

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