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大好きなアートと文芸関係、それに仙台を中心に私が見た日常のことを書いています。時々頑張って大体のんびり。もさらくさらの18年……。
私なんかがわざわざ言うまでもないことですが、今日は「文体」について書くので、当たり前のことを書きます。

 私は「世情に疎く、時勢に昏く」を信条として生きようと模索している身なので、別に〇〇賞を取ったからとか今度映画化されるからとか、そんな理由で本を読むようなことはしません。あくまで面白そうと思ったら読む。当然のことです(逆に言えば、「〇〇賞を取るような本なんか絶対に読むもんか!」と依怙地になるわけでもありません)。

 そして、中には「同じ作者が書いているから」という理由で2冊3冊と立て続けに読み、「この作家が好き」と言ってしまうような作家が生まれます。もちろん個々の作品によって読後感は「大好き!」 だったり「うん…読んだぞ!」だったりするわけですが、そこが偏食家たるゆえんです。


 今年は三島由紀夫さんの本を多く読みました。『仮面の告白』『潮騒』『金閣寺』『美徳のよろめき』『鏡子の家』そして『豊饒の海』あとはちくま文庫の短編集。それから『美しい星』『命売ります』も読みました。有名どころは大体読みました。なので私も「三島さんの作品が好き」と胸を張って言えると思うのですが、どんなところが好きかと言えば、やっぱりとても整然としてがっしりした骨格のある文体ですね。質実剛健なお人柄がそのまま屹立しているような文体が心地いいのです。
 
 寝っ転がって読めるような文章ではありません。居住まいを正して直立不動もしくは正座で……とは言わないまでも、テレビを見ながら読むとか、そういうことはできません。ちゃんと向き合い、しっかり物語の世界観を想像しながら読まないといけない。そんな感じの文章です。そういう文体だからこそ、これもまた三島さんの武器だと思うのですが、美しいレトリック、高級なメタファーで彩られた『殺し文句』が際立つのです。澁澤龍彦さんも出口裕弘さんもやられた『殺し文句』ですから、私なんかは一ころです。

 そういう文体は小説だけでなく随筆や、親しい人に宛てられた手紙なんかにも見出すことができます。手紙なんかはよりパーソナルなものですから、お人柄が現れていてさらに良いですね。

 三島さんが激賞していた森茉莉さんから服装についてアレコレ言われた(サドのようだとかイノサンだとか言われたらしい)ことに関しては「何事です」と激怒。さらに「金輪際貴女には小生の服装顧問になつていただきたくありません」「どうか、これからも、小生の服装については、御放念下さるやうにお願ひいたしておきます」とぴしゃり。時空を超えて覗き見した私も、さぞかし腹に据えかねたのだろうな…とハラハラしながら読みました。一方の茉莉さんは、三島さんに服装のことを言うと雑誌に公開して怒るし手紙で怒ってくるからやめよう、なんて、けろりとしたものですが。

 大体にして茉莉さんは、三島邸で催された降誕祭パアティーに三十分も「早く」到着してしまって、準備で忙しい三島さんを慌てさせたというエピソードがあるくらいですから、三島さんがどれほど怒って見せたところで微動だにしない気がします。むしろ三島さんの方が気の毒に見えてしまいます。

 でも、一番好きなのは次のエピソードです。もう丸ごと引用しちゃいます。



 三島が自衛隊に体験入隊したり、やたらに行動とか英雄とか言うことをいい出して、そのために無理に日本主義を奉じるような硬直したポーズを見せはじめたりしたとき、私は三島に手紙を書いて、「いつの間にか貴兄もずいぶん遠いところへ行ってしまわれたような気がします」と、自分の気持を伝えたことがあった。それに対する三島の返事のなかに、次のような一節がある。この手紙は昭和四十三年一月二十日付である。
「いろいろ近作にお目とほしいだたいてゐて恐縮ですが、その御感想によりますと、澁澤塾から破門された感あり、寂寥なきをえません。小生がこのごろ一心に『鋼鉄のやさしさ』とでもいふべきtendernessを追及してゐるのがわかつていただけないかなあ?」
 そういわれても、本当のところ、私にはよく分らなかったとしかいいようがない。三島が死んではじめて、その意味がおぼろげに分ったにすぎないのである。それにしても、この手紙の三島の口調には、なにかほろりとさせるものがある。
澁澤龍彦『三島由紀夫おぼえがき』中公文庫、24-25ページ)



 私が三島さんを想像する時はこんな人物を描きます。澁澤さんが見た三島さん。それで私はいいです。

 そして今の私は、別な人に、「ずいぶん遠いところへ行ってしまわれたような気がします」と言いたい気持ちです。SNS上でのやり取りだけだし、半年ほどのお付き合いではありますが、それでも……気持ちがついて行けなくて……Xも休止せざるを得ないくらい心が押しつぶされてしまったのです。

 でも、私はちゃんと見ています。そして、またXでご挨拶をさせて頂き、アレコレ感情をぶつけて受け止めてもらえるよう、しっかり心を治したいと思います。ですからどうか、それまでお元気でいてください。ずっと応援しています。私も心を治します。がんばりましょう。大好きです。

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