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大好きなアートと文芸関係、それに仙台を中心に私が見た日常のことを書いています。時々頑張って大体のんびり。もさらくさらの18年……。
仙台市太白区秋保にある『秋保の杜佐々木美術館&人形館』で開催された企画展『ドールという変移する記号3』を見てきました。去年に引き続き2回目です。

 去年は「書くと気持ちが薄れるから」とかってバカなことを言ってTwitter(当時)で感想をわめくにとどまっていましたが……今年は逆に書かないと気持ちが薄れるので思い切り書きます。去年のこともいずれ改めて、四谷シモン氏のことなどに絡めて書いていきたいと思いますが、いっぺんに書くとごちゃごちゃになっちゃうので、とりあえず今年の展示について書きたいと思います。


明治時代のはじめ、西洋からの彫刻(アート)が日本に伝わり、仏師や人形師などにも大きな影響を与えました。しかし後に、帝展などの場で人形は、彫刻ではなく工芸というジャンルのほうへ振り分けされています。そのことから、あくまで「日常の中で使い、生産され消えていくもの」というイメージが強かったのだと思われます。そして現在、日本の創作人形は、さまざまな影響をうけ、いくつもの文脈をまたいだグラデーションで構成されています。柳宗悦が「民藝」という言葉で語った営みの中の美、西洋から入ってきた彫刻や立体アートといった類のものたち…。さらに、日本のマンガやアニメ文化のフィギュア・ジオラマなどの類も加わり、より複雑に自由なかたちに変化してきました。
人形は他者からの付加価値よりも対峙者個人の精神の重さによる価値が高く、時にその価値は人々の想像を超えることがあります。よって、広義な意味で「人形」は、人が人間と認知する機能を持つものであり、人間の形を保つ必要性すらないともいえるでしょう。人形と対峙する行為は、まだ見ぬ人間の本質を知って行くための入り口なのかもしれません。
今回、会場に並ぶ作品は技法も素材もさまざまです。しかし一貫して、それぞれ人形の役割を連想させる力があります。それらを鑑賞しながら、人形と人間が築くであろう関係性について、改めて探っていければと考えています。(会場に掲示されていた展示概要)


 結局まるごと引用してしまいましたが、どういう展示なのかと言えばこういう内容となります。冒頭の告知ポスターに名を連ねたそうそうたるメンバーによる、ひとりひとり全く違った個性的な絵画であり人形であり……。
 何度かこのブログでも人形について書いたことがありますが、ルーツはこの企画展なんですよね。元々四谷シモン氏の人形は大好きだったのですが、1年前、シモンドールの実物がここ秋保の杜佐々木美術館&人形館にあるとTwitterで恐山Rさん(ウラロジ仙台編集長)から教えていただき……その時にやっていたこの企画展を見てシモンドールに限らず人形全般に対する感情が芽生えました。以来しばらく活動を抑えていたものの、アンデパンダン展で人首美鬼さんの創作人形を見て再燃。そして翌日、鵜坂紅葉さんの作品を見ていよいよ「私は人形が大好きだ」ということを明確に認知したところで今回の企画ですからね。もうね、明確にここに照準を合わせて飛んできたわけですよ。カメラ付き誘導ミサイルのごとく全速力(ただし法定速度内)で飛んできたわけですよ。そして狂気のごとく感情を爆発させ、こんなふうにバリバリとメモを残してきたわけです。

 一応、撮影OKと受付のところにあったので、いくつか撮影した写真を紹介していきたいと思います。

   *


 まずは清水だいきちさんの作品「たからばこ」です。
 清水さんは兎をモチーフにしたぬいぐるみや少女の人形、更に球体関節人形など、いきなり私の心をときめかせる素材の人形を製作されていたのですが、あえてその中から一枚を選ぶとすると、これですね。宝箱だから大切なものをしまっておくんです。
 アンティークな箱のなかに安置された少女たち。果たしてここに来るまでに、どれほどの時間が経っているのでしょう。もしかしたら「実は中世から続くヨーロッパの名家で作られ、19世紀のデカダン蒐集家によって引き取られた後、ここ秋保に流れ着いた」というストーリーがあるのかもしれません。ええ、私はユイスマンスの『さかしま』が大好きなんです。自分の愛好するものを集めた人工楽園を築いたデ・ゼッサントに憧れているので、以降もそんな感じのフィルターを通した感想となります。「人形は他者からの付加価値よりも対峙者個人の精神の重さによる価値が高」いのでね。私が(特にここ数か月で)仕入れた重さで人形と向き合い、無限の想像力をためらいなく爆発させたいと思ったのです。それはこうして文章で書く行為も含まれます。

 次は筥筐(こうよう)さんの作品『冬虫夏草』です。3つある中でこれが一番ワイドな形をしていて、16:9のレイアウトに最適だったのでセレクトしました。これまたデ・ゼッサントが美術品のひとつとしてコレクションしていそうな作品です。なお冬虫夏草というのはゲーム『大航海時代II』でも冒険家の発見物として登場します。十分に希少価値のあるものなんです。それがこうして人の形をしていたとなれば、もはやプリニウスの博物誌を読むようなときめきを感じます。

 柊ノ夜さんの『白鳩』です。これもなかなか私の心に強く訴えかけました。鋭い刃物でグサーッ……と突き刺されたような、「死の匂い」を感じました。ひどくやせ衰え死にかけた少女。手足や膝の赤みからは、通常私たち健康な人間や生物に感じられるような血のぬくもりが感じられません。程なく彼女の肉体は腐りはじめ、そして骨になって、土に還るのでしょう。そんな遠くない未来を予想しました。あと個人的には宇野亜喜良氏のイラストを見た時と同じような感覚を覚えました。60年代アングラ文化の象徴ですよね。天井桟敷とか……おっと、それは余談でした。

 ここで、冷たく暗い暗黒美少女の世界に引きこもっていた私をさんさんと降り注ぐ陽光のもとに引っ張り出してくれるような作品に出会いました。これはしょうじこずえさんの作品『チャームツリー』です。まあこれは、あんまり難しいことは言わなくてもいいですよね。単純にこの極彩色、あるかないか不安になるような細い体に対し「そんなことないよ!」と強く主張する眼。そういった印象を楽しめばいいんじゃないでしょうか。私はそうでした。ここまで神経症めいた空想ばかり広がっていて、さらに直前で柊ノ夜さんの『白鳩』を見て、すっかり死の幻想にとり憑かれていたので、いっそう印象が強まりました。夢から覚める直前、モノクロームの世界から私の自我が認知するところの「現実」というやつに戻ってくる直前の、パーッと光に包まれたような感覚。

 こちらはご覧の通り絵画です。そして、正直なところこの絵がどういうことなのか、今一つ私にはピンと来ませんでした。それは今でも同じです。この絵に対して、これまでのような爆発的な感情がわいてこず、写真を見ていても「う~む……」とうなるのが精一杯です。ただこの絵につけられタイトル、
 『何を以て正常と、何を以て異常と』
 というのは私がず~っとず~っと悩み続け、答えを探しているテーマであって、この絵も私と同じことを訴えかけているんだ! ということだけは認知しました。その問いに対する答えを示してくれたわけではないですが(そして、そもそもそんなものがあるかどうかはきわめて疑わしいものですが……何でもかんでも検索して答えを求められるほど世の中は浅くも薄くもつまらなくもないと信じているので)、自分と同じようなことを考えている人がいるんだということが嬉しかったです。こちらは「せん」さんの作品でした。

   *

 というわけで、ここでいったん文章を区切ります。すでに十分神経症めいた文章になったと思いますし。
 今回の企画展に合わせて、当美術館のオーナーである佐々木正芳氏の奥様・佐々木あゆみさん(故人)の企画展も「後援企画」として開催されておりました。元々あゆみさんは、佐々木正芳氏の作品だけでは物足りないだろうから人形館も併設しようと言い、自ら人形制作を学んで人形に対する理解を深めていたと言います。こうして人形に関する企画展をこの場所で開催できるのもそういう縁があってのこと……とは、今回の企画展の主催団体である「秋保ひとがた文化研究室」からの言葉です。
 また、個人的な話となってしまいますが、先日観た越後しのさんの個展も、あゆみさんの代表的な作品群『祭草』シリーズへの関連がありました。私はその辺のことを知らず、ただ越後しのさんの作品を見たい! という気持ちで来て……もちろん、それなりに感じるところはあったのですが……今回私も「祭草」シリーズの絵を見て、さらに越後しのさんの絵も会場で見て、感情がよりいっそう込み上げてくるものがあったので……2階の展示を見た感想と先日の個展のことを言ったり来たりしながら、次の文章を書きたいと思います。「書くべき時が来るまで待たなければいけないことがある」とは、こないだ読んだ『ハドリアヌス帝の回想』に関するユルスナールの言葉ですが、どうやらこれもそんな感じみたいです。何でもSNSで速報みたいにポンポン出せばいいわけじゃないんです。じっくり温めて、一気に書くのが大事なんです。

 消費してはいけない。
 消費されない心を大切にしたい。


 ※追記。越後しのさんの個展を見に行った日の写真を見返すと、ちゃんと祭草シリーズは見ていました。写真も撮っていました。ただ、その時は今回ほど強く意識せず……というか、感じたことがあまりにも多すぎて、忘れていたみたいです。また、個展のタイトルが『祭草の歩み』というものですが、関連というとちょっと違う気がします。いずれにしても、越後しのさんの個展については次回の記事でまとめます。そのうえで、今回書いたものは訂正せず追記という形で言い訳をさせていただきますスミマセンでした。

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