忍者ブログ
大好きなアートと文芸関係、それに仙台を中心に私が見た日常のことを書いています。時々頑張って大体のんびり。もさらくさらの18年……。
 いつも通りの、とはいったものの、黒豹の(人間とは思えない)戦闘能力は従来作品よりもパワーアップしています。どれくらいかというと、色々なものが入り乱れすぎて、どんな描写なんだか全然わからないくらい。

 とりあえず日本に帰ってきた黒豹は、秘書・高浜沙霧とともにアマゾン奥地にある悪の組織V/Nの基地へと飛びます。この時、いつのまにか倉脇首相はDC-8旅客機を経費で購入し、改良の上黒豹専用機として与えています。操縦も自分でやるのですが、ぶっつけ本番で自転車から宇宙船まで操縦できる黒木にとっては(マニュアルさえ事前に読めば)造作もないことだからOKです。

 しかしながら、中篇で大騒ぎした月の知的生命体が、ここでもまた登場します。それは前回、あっさり見捨てた科学者三十数名を含めた地球の悪の軍団を全滅させたということ、そしてもしもまた月を攻めてきたら今度は地球全体に総攻撃を加える、という最後通牒だったのでした(しかも、日本語で!)。

 これに対して黒木は「自分が組織を壊滅させるから、全面攻撃は待ってくれ」と(日本語で)返信。それに対する返事はありませんでしたが、まあ、黒木ならどうにかなるのでしょう。あと、チャイナ・シンドロームに関する問題も「コーネフ博士が何とかしてくれるでしょう」と、サラリと触れて後はほとんど出てきません。はっきり言ってそれどころではないのです(黒豹のバトルシーンを書きたい門田先生が……たぶん)。

 
 DC8でアメリカに渡ると、そこで涙ながらに大統領がV・N掃討を依頼してきます。さらにそのための秘密兵器(発射すると3方向に分裂し、その先で手榴弾15個分の爆発が発生する、らしい『クロス・ファイヤー』なる兵器です)をもらい、ステルス・グライダーを操縦してアマゾンの奥地へ降り立つふたり……。

 ここから大体150ページくらいを費やして、ジャングルにおける戦闘が繰り広げられるのですが、その描写がとてもすさまじいのです。

 ジャングルの中で大勢の兵士を相手に応戦するのはいつも通りなのですが、戦いの最中にも猿、大蛇、ジャガーなども入り乱れて、何がなんだかよくわからない激闘ぶり。私の読解力が足りないのか、精神力が足りないのか。兵士に向かって銃を乱射していたかと思うと、いきなり大蛇が黒木の左肩を強打し、もんどりうって倒れた時に銃弾が木の上で怯えていた猿の脳髄を砕き、ジャガーが咆哮を上げ、食らいつこうとした大蛇の頭にベレッタの銃弾を撃ちこんだ頃、敵が音を立てないようにしながら撤退する……。

 何を言ってるのかわからないと思いますが、わずか数ページにこんな感じのアクションが詰め込まれているので、私も具体的にどういう状況になっているのかよくわかりません。わかるのはとにかく、「黒豹スゴイ」ということくらいなのでした。

 あとは奥地に住む原住民たちと身振り手振り、あとは地面に書いた絵を使ってのコミュニケーションを経て、敵の秘密基地に乗り込むふたり。黒豹がここに乗り込むことを事前に察知していた悪の組織のボスはすでにここにはいなかったのですが、とりあえず合衆国に照準を合わせているICBMの発射装置を破壊するべく例の秘密兵器クロス・ファイヤーで徹底的に破壊し尽くす黒豹、そしてそれをサポートする沙霧。

 そして第二十三章『一輪の花が散りて……』で黒豹の、そして門田先生自身のテンションはまさにフォルテッシモに達します。

 大腿部、わき腹、鎖骨の貫通銃創から鮮血をほとばしらせ、さらに目とか鼻とか口からも血を流し、半裸になって62式機関銃を乱射する黒豹は、『黒豹皆殺し』で白瀬明日香を殺された時よりもさらに激しく、読んでいて思わず吹き出してしまうほど凄絶なものです。「沙霧イイイイイッ」と絶叫しながら撃ちまくる黒豹には、恐らくジョン・ランボーさえも悲鳴をあげて逃げ出してしまうに違いありません。その姿を想像するたびに私は笑いをこらえるのに必死になってしまいます。笑うところじゃないんだけどなあ。

 と、書きたいだけ書き尽くした後は、非常にあっさりした幕切れとなります。一応、地球爆発の危機についても「たぶん、大丈夫だろう」とフォローされていますが、悪の大ボスは結局のところ取り逃がしてしまったので、なんだかバッドエンドな感じです(まあ、このあと、全7冊もの大長編『黒豹ダブルダウン』へと続いていくのですが……)。


 最後に、一通り振り返ってみると、中篇あたりから門田先生のテンションがおかしくなり始めたような気がします。いや、確かに前編の、宇宙からのメッセージを受信したくだりから変な感じはしていたのですが、トンデモない盛り上がり(一般的には『暴走』とも)を見せ始めるのは、やはり中篇でしょうね。そしてかなり乱暴で強引な叩き込みの展開を見せる後編。ひたすら黒豹の血まみれの凄絶さだけを書き殴った構想4年、原稿用紙1600枚と言う『一大叙事詩』。ようやく読了しました。

 wikipediaで『ランボー 怒りの脱出』が、ベトナム戦争で味わったアメリカ人の喪失感を癒すファンタジーである、と語られたように。またある方が『黒豹伝説』のレビューで、失われた理想的な日本を描いたファンタジーであると語られたように。荒唐無稽、支離滅裂、奇想天外、……まじめな小説を読みなれた人からしてみればゴミクズ同然のものだとしても、素直に私は黒豹は強いと思うし、かっこいいとも思います。
 もしもこんな男が日本にいたら、と思ってもしまいます。
 そういうわけなので、とにかく一冊、手にとってみてください。あ、でも初期の方は割とまじめなので、個人的には『黒豹伝説』『黒豹皆殺し』『黒豹キルガン』あたりから読み始められることをお勧めします。もちろんいきなりこの『黒豹スペースコンバット』から読み始めても大いに楽しめることとは思います。

拍手[0回]

PR

コメント
この記事へのコメント
コメントを投稿
URL:
   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字

Pass:
秘密: 管理者にだけ表示
 
トラックバック
この記事のトラックバックURL

この記事へのトラックバック