学生だった頃の特技に「夢を夢と思うこと」がありました。

　「これは夢だ」と思うと、夢の世界にいながらちゃんと考え、行動できたのですね。その一方で何もないところから何かを取り出したり、一瞬で別なところに移動したり。

　クーカンとかヤカンとかを飛び越えてシュールな世界を楽しんでいたのですが、今朝ほどの夢の中ではそれができませんでした。


　どう考えても現実的でないことは、よくわかっていました。だから「これは夢だ」と思うと、以前であればパチンと何かがはじけて、自分ひとりだけがその世界から抜け出すことができたのですが、わかっていながらそれができなかった。仕方がないのでその世界を受け入れていたのですが、なんだか複雑な気持ちでした。


　原因は、なんとなく想像がつきます（あくまで「想像」ですが）。

　私は鉄道病患者ではないので現実逃避願望が飛び切り強かったわけではないのですが、それでも「不思議の国」「鏡の国」などに強い憧れを持ち、それ以外にもたくさんそのテの本を読んでいたので、たぶん今よりもずっとそちら側の世界に気持ちが近かったんだろうと思います。

　思い起こしてみれば、現実世界にあっても「コレは夢だ」と思うことが時々ありました。

　もちろん本当に夢じゃないことはよくわかっていたのですが、その上であえて空想を働かせ、幻想に遊んでいました。


　学生を終えてポンと４年が経ちました。

　当時付き合いのあった人とはほとんど疎遠になり、一応どうにか社会人をやっているうちに夢を見ることより現実を見ることが得意になりました。――そうではないつもりだったのですが、いつのまにかそうなってしまったようです。

　ケンシロウではありませんが、どうやら私もまた、昔の私ではないようです。

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