東雅夫編『夢野久作怪異小品集「夢Q夢魔物語」』を読みました。この投稿をInstagramで見る
『文豪ストレイドッグス』だとか『文豪とアルケミスト』だとか、そういうものが流行っている現代にあって夢野久作を『夢久』と略すだけに飽き足らず『夢Q』などと表現するとか。そのためこの本のタイトルも『夢Q夢魔物語』などというものになっているのでしょうか。……ま、そういうことに対して私がとやかく言うこともありますまい。夢Qと呼びたいなら呼べばよろしい。ストレイドッグスでもアルケミストでも、それを切っ掛けに『ドグラ・マグラ』までたどり着けばよろしい。さらにこういった短編集などを読んでそれぞれに夢野久作像を作り上げ、その中で楽しめば……そもそも文学も芸術も自分が楽しむためのものなのですから……そうすればよいのです。私だってアニメやゲームじゃなくて人間椅子(ロックバンド)の影響で手に取ったのですから。
さて、この小品集ですが、今まで読んだ夢野久作とはまた違った味付けのアンソロジーでした。「各作家の適切な入門書」と自ら標榜するように大変バランスの取れた(『瓶詰地獄』『氷の涯』『人間腸詰』が同居している!)ちくま日本文学版や『ドグラ・マグラ』のイメージを引き継ぎいかにもセンシティブな作品ばかりを取りそろえた角川文庫版と違い……割と穏やかな、幻想文学的な作品が多く取り揃えられていました。
そう、幻想文学なんです。稲垣足穂とか、ああいう感じ。ただしそこは夢野久作なので、ちゃんと狂気のエッセンスが込められています。文章を読み進めていくうちにそれは少しずつ効いてきて……夢うつつのように、まどろみのように、現実と幻想の区別がつかなくなっていくのです。
「自分の死体を見ている自分」
そういうシーンが何度も繰り返されたような気がします。短い作品がたくさん詰め込まれているので、どの話がどうだったのか。……今回は3時間くらいかけていっぺんに読んでしまったので、そういう意味でも作品のタイトルとか展開とかがあいまいで良い感じです。
その中でも特に良かったのが巻末に収録された『崑崙茶』という作品。この小品集の中では少し長めの内容なんですが(1万字くらい)、どこからどこまでが妄想で現実なのか……ひょっとしたら最初から最後まで全部、不眠症患者のうわ言に過ぎないのか……そういう作品でした。編者もこの作品がどうやらお気に入りのようです。
これは全く個人的な感想なんですが、これを読んで連想したのは人間椅子の3rdアルバム『黄金の夜明け』の最終トラックに収録された『狂気山脈』でした。もちろん狂気山脈といえばラヴクラフトですが、「崑崙」という……歌詞と小説に共通するキーワードがあるので、私はこの短編こそ人間椅子の歌う狂気山脈の世界だと勝手に結びつけました。アニメとか何とかと結びつけるよりはずっとマシでしょ。
そんなわけで、これはこれで良い本でした。誰が編纂したものだとしても、夢野久作が書いた作品である以上、その品質に間違いはないのですからね。これでまた一段、夢野久作を深く知ることができました。良い一日でした。
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